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プロが答える「私立歯学部の偏差値は、なぜ低い?」

この記事の目次

    なんとなく「私立歯学部の偏差値は低い」と思っている受験生や保護者の方は多いと思います。
    これを読めば、かなり印象が変わると思います。今後の私立歯学部の偏差値にも触れて行きます。

     

    1.現在の私立歯学部偏差値ランキング

     

    1-1.4大模試の「私立歯学部の偏差値ランキング」、受験者層の違いとは?

    受験生や保護者の皆さんの認識として「私立歯学部は易しい」、「私立歯学部の偏差値は低い」という認識があるのではないでしょうか?

       
    では、実際に4大模試の私立歯学部の偏差値ランキングを見てみましょう。

    ここで言う「4大模試」とは、河合塾が主催する「全統模試」、駿台予備学校が主催する「駿台全国模試」、ベネッセが主催する「進研模試」、東進が主催する「東進模試」の4つの模試を言います。

    これら4つの模試の受験者が実際に私立歯学部入試を受けた結果を調査して、それぞれの主催者がボーダーラインを探ります。予備校によって多少の違いはありますが、おおむね受験者の半数が合格した偏差値を「ボーダーライン偏差値」としています。

     

    ところで「偏差値」ですが、その模試の受験者全体の平均が偏差値50と考えていいでしょう。
    ただ、これは模試によって受験者層が異なりますので、同じ受験生でも「ある模試では偏差値50、ある模試では偏差値40、さらに別の模試では偏差値60」と言うことは珍しくありません。

    東大志望者が受験する東大模試では偏差値40の浪人受験生が、「現役生だけが受ける5月の模試では偏差値60」は、不思議でも何でもありません。小学生と一緒に走れば1位になる普通の高校生が、陸上日本選手権に参加したとしたら見るも無残な結果になります。

    受験者層の違いとは極端に言えば、そういったことです。

     

    1-2.4大模試の「私立歯学部の偏差値ランキング」

     

    では、実際に4大模試の「私立歯学部偏差値ランキング」を見てみましょう。

     

    2024年度入試 私立歯学部偏差値ランキング

     
    大学 河合塾 駿台 ベネッセ 東進
    北海道医療 42.5 51 45 59
    岩手医科 35.0 47 45 45
    奥羽 35.0 43 45  
    明海 40.0 52 48 62
    昭和 52.5 50 60 56
    東京歯科 55.0 57 59 62
    日本(歯) 47.5 52 55 56
    日本(松戸歯) BF 50 50 49
    日本歯科(東京) 47.5 47 61  
    神奈川歯科 35.0 45 45  
    鶴見 35.0 43 45  
    日本歯科(新潟) 42.5 44 47  
    松本歯科 37.5 43 45  
    朝日 37.5 50 45 58
    愛知学院 37.5 53 48 55
    大阪歯科 50.0 55 54 66
    福岡歯科 BF 51 45 42
     

     

    私立歯学部で最も難しい(最もボーダーライン偏差値が高い)歯学部は、河合塾は偏差値55.0の東京歯科大学としています。駿台予備学校も偏差値57の東京歯科大学としています。ベネッセ(進研模試)は私立歯学部でボーダーライン偏差値が最も高いのは昭和大学歯学部で、偏差値は65としています。東進では私立歯学部最難関は大阪歯科大学で、ボーダーライン偏差値は66としています。

     

    河合塾と駿台予備学校は、私立歯学部の最も高いボーダーライン偏差値でも偏差値は60を超えていません。一方で、ベネッセ(進研模試)と東進は、私立歯学部で最も高いボーダーライン偏差値は65を超えています

     

    受験生の皆さんはボーダーライン偏差値が65を超えていると「難しい大学」と感じるのではないでしょうか?しかし、ボーダーライン偏差値が60を下回っていれば「それほど難しくはない」と感じるのではないでしょうか?
    これが「受験者層の違い」です。

     

    私立歯学部は、「難しい」のか、「それほど難しくない」のか、受験生の皆さんも保護者の皆さんも混乱してしまいそうです。
    私立歯学部で一番難しい大学は東京歯科大学なのか、昭和大学歯学部なのか、大阪歯科大学なのか、これも予備校によって様々です。

     

    受験生や保護者の皆さんは、「私立歯学部の偏差値ランキング」は、「こんなものだ」と考えてください。絶対的なものではなく、あくまで目安として考えてください。

     

    1-3.他学部と歯学部の偏差値を比較すると

     

    大学入試全体の中で、歯学部の偏差値は高いのでしょうか?低いのでしょうか?
    それを検証するために私立大学工学部の偏差値と私立大学歯学部の偏差値を比較してみましょう。

     

    主な大学の偏差値、歯学部と工学部

     
    大学 偏差値
    早稲田・基幹理工・学問Ⅲ 62
    慶應義塾・理工・学問B・C 62
    早稲田・先進理工・電気 60
    早稲田・創造理工・建築 58
    同志社・理工・インテリ情報 58
    東京歯科・歯 57
    東京理科・工・情報工 57
    明治・理工・建築 53
    青山学院・理工・機械創造 51
    明治・理工・電気電子 51
    法政・デザイン工 50
    中央・理工・電気電子 48
    法政・理工・応用情報工 47
     

    駿台予備学校では東京歯科大学の偏差値を57としていました。
    では、駿台予備学校の偏差値57というと、どういった大学があるのでしょうか?

     

    駿台予備学校の工学部系偏差値57の大学は、東京理科大学と同志社大学の工学系学部・学科となります。偏差値57を超える大学は、東京理科大学と同志社大学の最高難易度の学部・学科、そして早稲田大学と慶應義塾大学だけになります。

     

    いわゆるMARCHと言われる大学では明治大学の工学系学部・学科が偏差値54から51の間に出て来ます。次に青山学院最上位が偏差値51、残る法政大学や中央大学などはさらにその下の偏差値です。

     

    偏差値で、東京歯科大学を超えるのは早稲田大学と慶應義塾大学そして東京理科大学と同志社大学の中で最高難度の学部・学科だけで、明治大学や青山学院大学、法政大学などは東京歯科大学より「かなり下の偏差値」です。

     

    これを見ると、私立歯学部の偏差値は「低くない」どころか「高め」とも言えそうです。

     

    1-4.私立歯学部は17ある

     

    確かに、私立歯学部の中でも「難しい」とされる大学は、「私立大学全体の中でも難易度は高い」と言えるでしょう。しかし、私立歯学部は17あります。問題は、私立歯学部でも「偏差値が低い」とされる大学です。

    もう一度、私立歯学部の偏差値ランキングを見てみましょう。

     
    大学 河合塾 駿台 ベネッセ 東進
    北海道医療 42.5 51 45 59
    岩手医科 35.0 47 45 45
    奥羽 35.0 43 45  
    明海 40.0 52 48 62
    昭和 52.5 50 60 56
    東京歯科 55.0 57 59 62
    日本(歯) 47.5 52 55 56
    日本(松戸歯) BF 50 50 49
    日本歯科(東京) 47.5 47 61  
    神奈川歯科 35.0 45 45  
    鶴見 35.0 43 45  
    日本歯科(新潟) 42.5 44 47  
    松本歯科 37.5 43 45  
    朝日 37.5 50 45 58
    愛知学院 37.5 53 48 55
    大阪歯科 50.0 55 54 66
    福岡歯科 BF 51 45 42
     

    河合塾の偏差値にBFと書かれた大学があります。
    BFとは「border free」の略で、受験者のほとんどが合格していて「ボーダーラインが設定出来ない」と言う意味です。

    河合塾の偏差値ランキングは偏差値35.0までありますが、「そこにも入れることが出来ない」大学が2校あります。また、偏差値30台の大学が7校あります

    これらの大学の存在が「歯学部の偏差値は低い」という意識に繋がっています。

     

    2.私立歯学部の偏差値が低い理由

     

    2-1.歯科医師は儲からない、という意識の広まり

     

    私立歯学部全体の志願者は1990年代後半では1万千人程度いました。それが現在では7千人程度まで落ち込んでいます。90年代後半の4割減です。

    この歯学部の志願者減の原因として、「歯科医は多すぎて儲からない」という意識の広がりがあります。2005年から2010年にかけて国公立・私立ともに歯学部の志願者が急減しました。

    この時期に週刊誌などで「歯医者はコンビニより多い」などといった刺激的な記事が競うように書かれました。また、インプラントに対する否定的な記事も多く書かれ、歯科医師に対するイメージは大きく損なわれました。

    その結果、歯科医師家庭ではない一般の家庭の受験生が歯学部を避けるようになり「歯学部を受験するのは、親の歯科医院を継ぐ受験生だけ」といった状況になりました。
    現在は、そういった傾向も少しずつ薄れてきてはいますが、それでも私立歯学部の志願者そのものが少ないことが「私立歯学部の偏差値が低い」という意識に繋がっています。

     

    2-2.歯科医師国家試験合格率の大学による「差」

     

    私立歯学部の偏差値で、「偏差値が低い大学」の存在について先ほど述べました。
    私立歯学部には、「偏差値が高い」と言ってもいい大学がある一方で、BFや偏差値30台の大学もあります。

    この差の大きな要因が「歯科医師国家試験合格率」です。

    受験生も親も「歯科医師国家試験合格率の高い大学に進学したい、させたい」と考えるのは当然と言えば当然でしょう。歯学部に進学するのは、「歯科医師になるため」ですので、「歯科医師国家試験合格率の低い大学では進学する意味がない」と考えるのも理解できるでしょう。

    ここで、歯科医師国家試験合格率を見てみましょう。

    第116回歯科医師国家試験合格率(既卒を含む大学全体)

     
    大学 国試合格率
    東京歯科大学 92.7%
    昭和大学 77.3%
    日本歯科大学(東京) 76.5%
    日本歯科大学(新潟) 75.8%
    松本歯科大学 70.5%
    大阪歯科大学 67.6%
    神奈川歯科大学 64.4%
    岩手歯科大学 59.6%
    明海大学 58.3%
    日本大学(歯) 56.0%
    日本大学(松戸歯) 55.3%
    北海道医療大学 55.2%
    鶴見大学 54.2%
    愛知学院大学 54.0%
    朝日大学 53.2%
    福岡歯科大学 39.3%
    奥羽大学 38.6%
     

     

    このように歯科医師国家試験合格率は92.7%から38.6%まで、大学によって大きな差があります

    私立歯学部を志望する優秀な受験生は、こぞって歯科医師国家試験合格率の高い大学を目指します。歯科医師国家試験合格率の低い大学には学力に自信の持てない受験生が志願することから、「偏差値」も低くなります。

    ただ、注意してもらいたいのは「歯科医師国家試験合格率は操作できる」という点です。「歯科医師国家試験に合格出来る」と考えられる学生だけを卒業させることで合格率を向上させることが出来ます。

    いったん卒業認定を保留して、歯科医師国家試験終了後に追試験で卒業認定を行うことで、留年者を増やすことなく国家試験合格率を上げることが可能になります。

     

    2-3.優秀な受験生は、一般選抜を受けない

     

    私立歯学部受験の特殊性として「優秀な受験生は、推薦入試やAO入試で合格する」と言うことが挙げられます。私立歯学部の推薦入試(学校推薦型選抜)では、東京歯科大学や日本歯科大学、大阪歯科大学といった人気校も募集人員をかなり超えて合格者を出します

    歯学部を目指す学力上位の受験生は、ここで入試を終え一般選抜は受験しません。
    言葉を変えて言うと「私立歯学部一般選抜を受ける受験生は、推薦入試に落ちた受験生で、学力上位層はいない」と言うことになります。

    「私立歯学部の偏差値ランキング」は、一般選抜のボーダーライン偏差値を表しています。私立歯学部一般選抜(一般入試)は、学力上位層の抜けた試験になりますので、「偏差値」も当然、低くなります。

     

     

    3.これからの「私立歯学部偏差値」の見通し

     

    3-1. 今後、私立歯学部の偏差値が上昇する理由

    「歯科医師は多すぎて儲からない」という意識が歯学部の偏差値が低い理由の一つと述べました。では、今後はどうなるのでしょうか?

    歯科医師の年齢別分布を見ると60代以降が大きく膨らんでいます。
    近いうちに歯科医師の大量引退時代が訪れます
    こうなるとむしろ「歯科医師不足」が言われる可能性が十分にあります。
    現在は厚生労働省によって抑制的な合格率とされている歯科医師国家試験合格率は、歯科医師不足の兆候が表れれば上がるでしょう。それに伴って各歯学部の合格率も上がります

    また、歯科医師の仕事も「矯正」、「審美・美容」といった分野が広がりを見せています。

    今後、歯科医師が大量に引退することと、歯科医師のフィールドが広がることで歯学部人気は向上すると考えられます。

     

    3-2. 私立歯学部の偏差値は具体的にどうなる?

    歯学部人気が復活すると、私立歯学部の偏差値は具体的にはどうなるのでしょうか?

    東京歯科大学や昭和大学歯学部などの人気校の偏差値は上がるとしても、それほど大きく上がることは無さそうです。

    一方で現在、偏差値が低いとされている大学の偏差値が大きく上がると予想されます。私立歯学部の偏差値は今後、上下の差がぐっと縮まると考えていいでしょう。

    現在、非常に人気の高い私立医学部の偏差値推移も、上下の差が縮まる歴史を見せています。これと同じように私立歯学部の偏差値も、上下の差がぐっと縮まることが予想されます。